ギター

どうしても弾きたいギターがあって

思い立って

電車に2時間乗って

そのお店に弾きに行った

僕が弾いている間

これを買い取ってくださいと

サックスを持ち込んできた女性がいた

ずいぶん大切に演奏されていたんですねと

店員が言う

15万円でその人は手放すことを決意していた

 

その間も僕は

ギターを弾いていた

アンプはフェンダーで

ギターはギブソンだった

雨が降らない街の人々は

雨のことを太陽と呼ぶ

そしてみんな口々に

「虹が見たい」と言う

僕は慌てて虹に問い合わせてみるけれど

もう最終電車を乗り過ごしたから行けない

と虹は言う

目の前で君はガムを噛んでいる

僕はそのガムが膨らみ風船になるのを待つ

風船は

もう2度と現れない

虹のところへ飛んでいく

ありがとう

書くことがないという時点で

もうすでに何かを書いている

夜になれば朝が何者か分かるし

朝になれば夜が何者かが分かる

私は何になれば

何者か分かるのか

何かに逆らいたくなり

地球を蹴りジャンプをする

重力は

いつも

そこにある

ありがとう

ナポリタン

いつも髪を切りに行く床屋の帰り道に

気になる喫茶店があった

なぜだかいつも入りづらい空気を感じ

何年も素通りしていたけれど

先日意を決して入ることができた

入るとおじいさんが出迎えてくれる

気の利いたものは何もないよとおっしゃる

かまいませんと僕

メニューには

カレーライス、ピラフ、ナポリタンとある

しばらく悩んでカレーをお願いしますと伝えるも

カレーはないよ、お米がないんだとおっしゃる

おじいさんは何も言わずに立っている

じゃあナポリタンでという僕の口を

ずっと見つめている

僕がナポリタンと口にした瞬間

奥にいた女性が立ち上がる

なぜか犬の口を手で掴んでずっとそこにいた

その女性はお客さんだと思っていた

その女性が犬の口から手を離した途端

犬は大声で鳴き始めた

ワンワン吠え続ける犬の声と

鍋の炒めものの音が充満する

ふと横を見るとおじいさんが

5人前くらいのパスタをゆっくりゆっくり食べていた

ほかにお客さんもいないので

なんだかソワソワドキドキしてきた

残すんじゃないよと女性が厨房から

おじいさんに声をかける

パスタには何のソースもかかっていない

女性がナポリタンを持って厨房から出てきた

何の言葉もなかった

ドキドキしながらナポリタンを食べた

見事なまでに美味しかった

女性が犬の口をまたおさえる

犬の鳴き声も消え

テレビでワイドショーが映っていることを知った

お会計をして店を出た

振り返ることができず

これは幻と言い聞かせて

帰り道を急いだ

なんか寒いなと思ったら

そうだ髪切ったんだっけ

そうかも

歌は

喉から声が出るより

鼻から出たり

胸辺りから出てくる方が好きだ

 

ギターのようなドラムが好きだし

トランペットのようなファズギターが好きだ

 

そもそもどこからどこが

音楽で

どこからどこが

犬と猫か分からない

 

その境界線に立つことができるなら

そこに立って

その景色を眺めたい

 

山頂かも

のぼらない朝日がのぼってくるのを

待ち続けるのかも