いつからだろう。それは忘れた。
鏡に自分の姿が映らない。
美しい自分の姿が映らない。
鏡はもちろん、車の窓、ガラス張りのドアー。
街を歩いていても自分の姿はどこにも確認できない。
不安になり恋人に聞いた。
「おれはここにいるか?」と。
恋人は答える。
「ええ、いるわ。美しいあなたが」と。
おれは答える。
「君は今日も美しいよ」と。
鏡に映らないだけならまあいいかと思ったけれどこれがとても不便だ。
美しい自分をさらに高める為の身支度ができない。
恋人がオフィスに出かけている間、自分を確認することができない。
たまらず家の目の前にあるコンビニに飛び込み店員に聞く。
「おれの今日の髪型はどうだ?」と。
店員は答える。
「あなたの髪型は美しいですよ」と。
おれは答える。
「君もその髪型、今日もいかしている」と。
安心して家に帰り、眠りにつく。
静まりかえった夜。
誰も歩いていない通り。
車もバイクも自転車も走らない通り。
かつては鏡に映っていた人々で
賑わった通り。
鏡に映らない人々が明日に備えて
今日も眠りにつく。