駅前でギターを弾いてる男がいた。
そこへ警察が来た。
「ここで音を鳴らすのは禁止されている」
ギターの男は答えた。
「このギターは無音ギターです。
弾いても音は出ません。
鞄と同じような物です」と。
警察は諦めてどこかへ行ってしまった。
ギターの男はひたすら演奏を続けた。
音は出ていないのに。
僕はその場を立ち去った。
二時間後、あの男のことが気になり駅前へ引き返した。
男はまだ演奏を続けていた。
そして50人ほどの聴衆がその男を取り囲んでいた。
僕は背伸びをしてギターの男を見ようとした。
依然、ギターから音は出ていない。
しかし男は
喜怒哀楽のどの感情にも当てはまらない空気を
その場に作り出していた。
聴衆は完全にその男に魅了されていた。
また警察が来た。
「ここは演奏禁止だ」
男は答えた。
「このギターからは音は出ていません」
警察は言う。
「こんなにも人を集めては周りに迷惑だ。
すぐ立ち去りなさい」
男は、音の出ないギターをぶら下げ立ち去ってしまった。
残された聴衆たちはまるで
人生が変わったかのような感動を胸に刻み
それぞれの
家に帰った。